自筆証書遺言と公正証書遺言

遺言書の方式

 普通方式と特別方式があります。

 普通方式には自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つがあります。一般的に遺言書を書くとなった時に選択する方式として代表的な2つである自筆証書遺言公正証書遺言については項を改めて下で説明します。秘密証書遺言は自筆証書遺言と公正証書遺言の中間的な存在の方式であり、ここでは説明を省略します。

 特別形式は遺言者が臨終の時や遭難した船の中などの危急の時、伝染病で隔離されている時や船の中など離れた場所で遺言を作成する時に用いられます。

自筆証書遺言

 遺言者が自書して作成する遺言のこと。パソコンでの作成や他人の代筆は不可。

 長所  1人で作成できるので作成したことを人に知られない

     費用がかからない

      紙・筆記具代程度で済むので気楽に後日の書き直しができる。

 短所  保管が難しい

      保管場所が不適当だと遺族に見つけてもらえない、紛失のおそれがある。

      遺言書を見つけた者に隠匿されるおそれがある。

     効力が否定されるおそれがある

      遺言書は形式が厳格に定められており、形式不備があると効力が否定される。

      遺言記載の表現の仕方が抽象的だったり確定できないものだったりするなどの問題があって、遺言者の真意通りに遺言が執行されないおそれがある。

      何者かに偽造、変造されるおそれがある。

      病気や怪我によって手が震えたり、筆圧が弱々しくなったりして、健常時と筆跡が異なっていると自筆でないと疑われてしまう。

     家庭裁判所による検認の手続きが必要

      請求から検認まで通常一カ月間ほどの日数を要する。

公正証書遺言

 遺言者が公証人に遺言内容を口述し、公証人が作成した遺言のこと。平成12年から口がきけない方、耳の聞こえない方も利用できるようになりました。

 長所  保管が確実で紛失のおそれが無い

      公証人が原本を保管し、遺言者は正本と謄本を保管する。災害等での滅失に備えて二重保存の仕組みが構築されている。

      保管期間は20年であるが、実務では期限を過ぎても保管してもらえる運用がなされている。

      ただし、遺言者が亡くなった時に自動的に連絡が来るわけでは無く、遺族側から遺言書があるかどうかを問い合わせる必要がある。調べられるのは利害関係人だけである。平成元年以降の作成ならば、全国どこの公証人役場で作成していても公正証書遺言の存在が把握できるようになっている。

     効力を否定されることが(ほぼ)無い

      公証人は元裁判官や検察官などの法律に習熟し経験が豊富な方がされており、形式不備や記載表現の問題がまず起こらない。

      偽造・変造は公正証書遺言の仕組み上起こり得ない。

     家庭裁判所による検認の手続きの必要が無い

      相続が開始した時(遺言者が亡くなった時)、遺言書が封印されていても即時開封して執行できる。

 短所  証人2人が作成に関わるので遺言書を作成したことやその内容が他人に知られてしまう可能性がある

      依頼すれば公証人が証人を用意してくださり、この場合漏えいのおそれは無い。問題は遺言者が証人を用意した場合である。

     費用がかかる

      日本公証人連合会のホームページの「公正証書遺言を作成する場合の手数料は、どれくらいかかるのですか?」の項目をご覧下さい。「売買契約、遺言等の公正証書作成手数料の具体的な事例の説明」の項目も参考になります。

自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらにするか

 自筆証書遺言と公正証書遺言の解説を見比べるとお分かりいただけると思いますが、前者の長所は後者の短所と、前者の短所は後者の長所とその内容が呼応しています。完全無欠の遺言は存在しないので、どちらか選択する時の基準は遺言者が一番重視していることを確実に達成できる方の遺言を選ぶべきだ、と考えられます。

各解説ページについてのお断り

専門用語を多用しないように気を付けていますが、どうしても使う際にはできるだけ分かり易い説明を付け加えます。また、分かり易さを優先して婉曲表現や丁寧な言い回しを使用しないことが多々ありますのでお気を悪くなさらないで下さい。