遺言書の効力

遺言書の効力の強さ

 遺言書には大変強い効力が認められています。映画やドラマで「遺言書が見つかった」と誰かが発言する場面では皆の注目を集め、遺言書が読み上げられる場面では関係者一同が厳粛な雰囲気の中で静かに待ちます。これは故人の意思が伝えられるというだけではなく、その内容には従わなければならないのだと関係者一同が感じているからでしょう。

 しかし、実は遺言書にはいかなる場合でも従わなければならないかというとそうではありません。例外的に遺言書の効力を上回り、その内容に従わなくてもよくなる状況が唯一つだけあります。それは、「全ての法定相続人による遺産分割協議の合意」が成立することです。ただし、法定相続人ではない第三者へ遺贈する内容が遺言書に含まれている場合、その部分は全ての法定相続人が合意しようとも否定できません。遺留分(法定相続人に最低限認められている相続分)を侵害している部分があれば、その部分に対して遺留分減殺請求(遺留分を侵害した相手に対して取り戻す請求)ができるだけです。
 
これらの関係の法律上の強さを数学的に表現するなら、
全ての法定相続人による遺産分割協議の合意 >(ただし、第三者への遺贈時は<) 遺言書
ということになります。

 遺言書の内容が到底遺族に受け入れられないような、例えば、故人が亡くなる直前の短期間だけ介護・看護していた家政婦さんに全ての遺産を相続させるとか、得体の知れない団体・組織に遺産を全額寄付するとかの場合には極めて困った事態になります。

 いきなり遺言書の効力が否定される条件を説明したので、これから遺言書を作成しようとしていたのにがっかりされる方がいらっしゃるかもしれません。しかし、遺言書の効力を上回るものは、全ての法定相続人による遺産分割協議の合意という、成立するとしても手間と時間を要する難易度の高いもの唯一つしか存在しないのですし、しかもそれには限定的な効力しか認められていないのですから、遺言書は大変に効力が強いということを実感していただけると思います。

遺言書が無かったらどうなるか

 遺言書が無かった場合、相続人は相続人全員による遺産分割の合意を目指します。何らかの事情でこの合意に至らなかった場合は調停や審判(家庭裁判所における裁判の一種)による決着となります。審判となると数年かかることもよくあり、相続人が各々別個の弁護士に委任して高額の費用と長い時間がかかることになります。少なく見積もっても何十万円もかかる費用は各相続人が自己の相続分を受け取る前の先払いになってしまって大変な負担ですし、弁護士の少ない地域で相続人の数が多ければ弁護士の取り合いすら起こってしまいます。

 民法に定められた法定相続分というものは争いになった状態を解決するための目安でありますので、調停や審判となった時は基本的にこの法定相続分に従って遺産を分割することになります。その結果、相続人の一人が跡を継いだ家業に差し障りがでたり、故人と同居していた遺族がその住まいから退去させられることになったりなど実情にそぐわない結末になることが多々あります。このような不幸な状況を避けるためにも、適切な遺言書を用意されることをお勧めします。

 遺言書には遺族に争いを起こさせないという強い効力があるのです。遺言書と調停や審判による決着の関係を数学的に表現すれば、

遺言書 > 法定相続分による遺産分割

ということになるでしょう。

 なお、遺言書には上記のような効力があるので、実は遺言書が存在しているのに当初見つけられず、無いと勘違いしていた遺言書が後日に見つかると大変に厄介です。特に、調停や審判が始まっているとそれらが無駄になりかねません。ですので、お葬式が終わったら遺言書の捜索には一時も早く全力を尽くして下さい。遺言者は遺言書を遺族が探したら早く見つけられるように保管することが大切です。一通しか作成しなかった遺言書を銀行の貸金庫など相続が開始すると封鎖されるような場所には決して保管しないように気を付けましょう。

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